FEATURE
デザイントライン VOL_13 丸若 裕俊さん
2011年にちょんまげ頭の侍が変わらず生きていたら?そういう風に考えることが、アイデアの源なんです
―昔に比べると、日本人の己の文化に対する意識が高まっているような気がする。それはそういった雑誌が以前より増えたこともそうだし、漫画「へうげもの」に代表されるような陶器ブームもあった。全国の美術館で頻繁に開催される浮世絵展などもその1つに数えられる。戦後日本文化を否定し続けてきた中で日本人はやっと原点に立ち返ったのかもしれない。なにはともあれ日本文化は今注目されている。そんな日本の文化をありのままに復刻するのではなく、そこに現代的なエッセンスを取り入れた独創的なスタイルで再提案する人がいる。それがプロダクトプロデューサー、丸若裕俊だ。彼は何を考え、活動しているのか?

ーまずは丸若さんの活動内容を教えて下さい。

丸若裕俊(以下略 M):

抽象的な言い方をしてしまうと、物の価値を創造する会社を経営しています。例えば、この鉛筆が一般的には10円とか、100円の価値があるとするならば、それに対して1000万円の価値をつけるようなことですね。物の価値ってあくまで概念じゃないですか。作りやすいとか、貴重なモノだからといった理由で安いとか、高いとかが決まってしまう。果たしてゼロの状態にした時に、それは本当に大切なモノなのか? そういった部分で改めて、本当のモノの価値を再提案しています。あまり馴染みがない職業かもしれませんが、プロダクトプロデュースというふうに呼んでいます。

ーなるほど。具体的にはどういったモノを作られているんですか?

M :

例えば、僕のiPhoneに付いている印傳のiPhoneカバー(http://shop.maru-waka.com/?pid=24066826)とかですね。これは日本の伝統的な工芸品で、お婆ちゃんのお財布とか、印鑑ケースに使われていたモノなんです。それを現代社会の技術の象徴であるiPhoneのカバーに落とし込むことで、若い人たちに印傳という素材を再認識させる。そうすることで印傳に新しい価値が植え付けられるんですね。

ーそうなんですね。その他にはありますか?

M :

あとはハイメ・アジョンというデザイナーと九谷焼による焼き物です。彼の独創性に富んだアイデアと伝統的な九谷焼の確かな技術を融合させることで新しいスタイルとなったユニークな焼き物です。鳥の姿をしたしょうゆ差しとか、並べると福笑いのような顔になるお皿など……。誰もが創造し得なかった形で再提案することで、少しでも多くの人に九谷焼に興味を持ってもらえたらと。ハイメ・アジョンはこれまでにもこういった手法でモノ作りをしていて、リヤドロを再建したり、バカラにデザインを提供したりと、まさに世界の第一線で活躍するデザイナーなんです。

ーそうなんですか。丸若さんの作品は日本の伝統的な文化を題材にしていることが多いような気がするんですが……。

M :

日本が作ってきた伝統工芸品は本質がしっかりと備わっているし、揺るぎないんですよね。だから、日本の文化を創作活動のバックボーンとしているし、世の中の人に改めてその良さを提案したいなと思っていますね。

ーもともと日本の文化に興味はあったんですか?

M :

好きでしたね。でも、いわゆる歴史好きとかではなくて、単純に対象物として興味があったんですよ。見た目のインパクトもそうだし、細かい部分の作り込みから技術力の高さを感じさせてくれるのは日本の工芸品だけですからね。

ーそういった日本の伝統的な工芸品のプロデュースを手掛けるようになったのはいつからなんですか?

M :

プーマとコラボレーションした九谷焼き製の自転車を作ったのが最初です。僕はそれまでは絵を描くのが本業で、プーマからのオファーも最初はイベント用に絵を描いてくれって言われていたんですよ。でも、どうせやるなら誰もが目にしたことのない面白いモノを作りたいということで、相談に相談を重ねた結果、九谷焼き製の自転車に行き着きました。元々、オファーを受ける前から九谷焼の組合とは人を介して交流があって、造形や色の美しさに惚れていたってこともありますね。

ーなるほど、そうだったんですか。しかし何故自転車で九谷焼を作ろうと思ったんですか?

M :

ありえないものって目を惹くじゃないですか? 違和感というか。人間ってそんなに多くの目的を持っていないと思っているんですね。ただ単純に楽しみたいとか、満足したいっていう願望の元に生きている。その願望を叶えてあげるにはどうしたらいいのか? って考えていたところ、やっぱりパッと見のインパクトや意外性が重要だなと。だって、実はこの自転車は九谷焼でできているんですよって言われて、それが本当に九谷焼でできていたら、誰もがびっくりするじゃないですか。

ーあの自転車って実際に乗ることはできるんですか?

M :

それが乗れるんですよ。サドルとグリップの九谷焼のパーツが付け替えられるようになっています。家にいるときには飾って楽しんでもらって、外に行くときは気兼ねなく自転車として乗れるようにしました。

ーそれは凄い! 僕はてっきり飾り専用のモノかとずっと思っていました。是非一度乗ってみたいですね! しかしそういった独創性に富んだアイデアはどこから生まれるんですか?

M :

どの作品においてもニアフューチャーというテーマを掲げています。具体的に言うと、例えばちょんまげ頭の侍が2011年に変わらず生きていたとして、南蛮から最新のモノが輸入されてきたらどう使いこなすか? ということを念頭において考えるんです。今の日本人には古来から日本人が持っているぶっ飛んだ感覚、ラテン的な感覚や独創性が欠如してしまっていると思っていて。だから昔の人のぶっ飛んだ感覚を拝借して、現代の技術や感性に落とし込む。そうすることで誰もが見たことのない、ワクワクできるモノができ上がったりするんです。

ーそれがアイデアの源だったんですね。妙に納得しました。そういったインスピレーションを元に作られた作品の中でも特に印象深いモノはどんなものだったりしますか?

M :

数々と手掛けてきましたが、ビジネス的にはiPhoneのカバーケースですね。また、個人的に印象深いのは九谷焼の花詰めという技法で手書きで絵付けされた髑髏の菓子壷。僕の中では王道的というか、どんな世代の人が見ても、髑髏だってわかる。これだけでモノとして完結しているんです。だから何百年経って、未来人がこれを目にしてもこれが一体何なのかってわかると思うんですよ。実際に海外での反応も良かったし、僕の手掛けたプロジェクトで初めて美術館に所蔵されたんですよ。

ーどこの美術館に所蔵されているんですか?

M :

金沢の21世紀美術館が作品を気に入ってくれて、所蔵品としてお買い上げ頂きました。あとは、2年くらい前に六本木ヒルズで開催されていた「医学と芸樹展」に出品させてもらったんですが、その時はレオナルド・ダ・ビンチの作品と一緒に並べて展示してもらったんです。元々、ダ・ビンチの作品が好きで、自分が死んだ後にダ・ビンチと一緒に飾ってもらえる作品が作れたらいいなとは思っていたので、これは本当に嬉しかったですね。

ーダ・ビンチと肩を並べたわけですね。

M :

いやいや。そんなことは一ミリも思っていません。ただ、同じ空気を共有することができたというか、すごく光栄なことだし、身が引き締まる思いでした。だから個人的にとても印象深い作品なんだと思います。

ーなるほど。その髑髏に続くような作品?

M :

絶えず6〜8個くらいのプロジェクトを同時進行させています。今は江戸切り子、漆、印傳、チタン……などなど。あとはモノ作りを体系化したシステムですね。これにはけっこう力を入れていて、誰もが共有できるモノ作りのプラットフォームなんですが、デザイナーと技術者のシンクタンクをそれぞれ作って、ウチがその窓口になるんです。例えば、モノ作りの経験がない人でも、キーワードさえウチに持ってきてもらえば、その体系を使って簡単にモノ作りができる。そうすると、今以上の比べ物にならないほどの多くのアイデアが世の中に溢れるようになって、新たな可能性がどんどん広がっていく。そういう未来が実現できるように少しづつ進行中です。

ーそれが実現したら、面白そうですね! 最後に丸若さんにとってモノ作りとは?

M :

昔の日本人のクリエイティブ力はいつ見ても凄いなって驚かされるんですよ。例えば美人画って本当に美人なのか? 春画のどこで興奮を覚えるんだ? とか挙げたら切りはないんですが、想像力の豊かさには目を見張るものがある。失われたクリエイティブ力ですね。一方で現代日本人にはそれがない。しかし、過去にはない技術が存在する。だったら、それを融合させてみたらどんなことになるんだ? と考えるわけですよ。 かつて存在した素晴らしい職人さんたちもクリエイティブ力を最大限に出し切って、死んでいったわけではないと思います。だから僕は時間軸を崩していって、その人たちが叶えられなかったモノを現在の技術で作る。それが僕にとってのモノ作りだと思います。

丸若 裕俊(プロダクトプロデューサー)
日本古来の工芸品を現代の感性と技術というフィルターを通すして、
独創的な形として再提案するプロダクトプロデューサー。そのオンリーワンな作品は
国内外から注目され、 自身の運営するオンラインショップ丸若屋でも販売されている。
渡辺 潤
本誌のアートディレクションを担当。
異業種のクリエイターが所属するkaleidosxope Inc.の代表。
ジャンル、業種を越えたクリエイションの実現を目指し、活動を展開。
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